2016/11/20

子供











































新生児室の前にアイビーが立っている。
窓ガラスの向こうでは、生まれて間もない幼児たちがベッドに寝かされている。

















アイビー「・・・・。」















医師「レッドさんのことは・・・残念でした。」

リリィ「ダメだったんですね。」

医師「・・・私たちも、手は尽くしたのですが・・・・彼女の心臓には負担が大きすぎたようです。」














アイビー「 (ミランダさん・・・・。) 」
















リリィ「先生、おなかの子はどうなったんですか?」

















医師「なんとか無事です。」


アイビーが顔を上げる。


医師「しかし・・・。」












医師「まだ26週目の早産だったこともあり、体重は700gしかない、小さな赤ちゃんです。」

リリィ「・・・性別は?」

医師「男の子ですよ。」












アイビー「 (700g・・・・?生まれてくる赤ちゃんって、2000gとか3000gくらいだよね・・・。700って・・・・。) 」

リリィ「生存確率はどのくらいですか?」













医師「70%くらいでしょう。」

リリィ「70・・・。」

医師「無事に成長できたとしても、障害が残る可能性もあります。」

リリィ「無事に育てば結構です。子供のこと、よろしくお願いします。」

医師「もちろん、私たちも最善は尽くします。彼の生命力にも期待しましょう。」











リリィ「アイビー、私は葬儀の準備なんかがあるから、しばらく来られそうにないわ。」

アイビー「はい。毎日ここへは来るつもりでいるので、なにかあれば連絡します。」

リリィ「お願いね。」












リリィ「それから・・・念のためにもう一度聞くけど。」

アイビー「はい。」

リリィ「本当に子供を引き取る気はある?」













リリィ「あなたも聞いたでしょう?生存確率は今のところ70%。無事に成長できたとしても体に障害が残るかもしれない。普通の子供とは、同じように生活できない可能性もあるわ。」















アイビー「わかってます。それでも、私が引き取ります。ちゃんと・・・育ててみせます。・・・・ロミオの、息子だから。」












リリィの表情にふっと笑顔が宿る。


リリィ「決心したのね。」

アイビー「はい。」













リリィ「私も全力であなたをサポートするつもりよ。仕事のことも、子供のこともね。」

アイビー「はい。よろしくお願いします。」

リリィ「・・・そういえば、ミラに子供の名前を聞いていたんだったわ。」














アイビー「名前・・・?」

















リリィ「サンリット・タイズに居る間にね。おなかの子の話をしたのよ。」

アイビー「赤ちゃんの名前ですか?」

リリィ「ええ。男の子なら・・・。」














ミランダ「アダム。」
















リリィ「アダム?アダムとイヴの、アダム?」

ミランダ「そう。」

リリィ「地上ではじめての男、ね。」















リリィ「それに・・・私の父の名でもあるのよ。」














リリィ「そうなの?はじめて聞いたわ。」

ミランダ「はじめて話したもの。」

リリィ「・・・女の子なら?」














ミランダ「男の子よ、きっと。」


















アイビー「 (アダム・・・・。) 」

















アイビー「 (あなたも早くこの子たちと一緒に、並んで眠る日がくればいいのに・・・・。) 」
















看護師「は~い、ミルクですよ~。」

幼児「きゃっきゃ。」
















看護師「たくさん飲んで、大きくなるんだよ~。」















アイビー「・・・・。」


















アイビー「 (早く会いたい。ああやって抱っこして・・・この手で抱きしめたい。) 」















アイビー「 (ロミオ・・・。ミランダさん・・・・。どうかアダムが無事に育ちますように・・・・。見守っていて。) 」












アイビー「 (どうか・・・・。) 」



































アイビー「ごめんね遅い時間に。」

ディーン「気にすんなよ。」

ラトーシャ「アイビー、ご飯は?」

アイビー「食べてきたよ。」

ラトーシャ「そっか。」









アイビー「ツリー、片付けたんだ?」

ディーン「うん。昨日な。」

アイビー「そうなんだ?」















アイビー「ふたりにちゃんと謝りたくて。一昨日はごめんなさい。」

ディーン「クリスマスのことか?」

アイビー「うん。ドタキャンしちゃって・・・ホントごめんね。」












ディーン「しょうがねぇよ。俺もラトもちゃんとわかってるから、そんな気にすんなって。」

ラトーシャ「そうだよアイビー。クリスマスパーティーなら、また来年やろう。」














アイビー「ふたりとも・・・ありがとう。」

ディーン「来年はララたちも来れるといいよな。」

ラトーシャ「そうだね~。」

アイビー「・・・・。」











ディーン「そういえばお前、年末帰れそうか?」

ラトーシャ「そうそう。チケット予約しようと思ってたんだ。何時の便がいいか、アイビーに相談しようと思ってたところなんだけど。」













アイビー「それがね、ちょっと・・・・今年は帰れそうにないの。」

ラトーシャ「え?」












ディーン「休みなんだよな?なにかあったのか?」

アイビー「うん。」

ラトーシャ「・・・・。」












アイビー「今日はちゃんとふたりに話そうと思って。」

ディーン「話すって・・・なにをだよ?」

アイビー「ちょっと長い話になるんだけど・・・聞いてくれる?」











アイビー「あのね、ロミオが亡くなる前のことなんだけど・・・。」


アイビーがゆっくりと話し出す。

ロミオが事故にあう直前に悩んでいた、ミランダのおなかの子供のこと。
そしてミランダとの契約。
ミランダが死んで、子供を引き取ることになったことや、子供が未熟児で産まれ、当分病院から出られないこと。


ディーンとラトーシャは複雑な表情で聞いていた。










アイビー「アダムはいつ出られるかわからない。いつ会えるかも・・・。」

ラトーシャ「・・・・。」

アイビー「だから、いつでもすぐに駆けつけられるように、ブリッジポートをしばらく離れたくないんだ。」

ディーン「・・・・。」

アイビー「そういうわけだから・・・今回は帰れないの。」










ディーン「アイビー。」

アイビー「はい。」

ディーン「お前、自分がなに言ってるか、ちゃんとわかってるのか?」













アイビー「わかってるよ。」














ディーン「全然わかってねぇよ!」


ディーンが珍しく声を荒げる。


ラトーシャ「ディーン、落ち着いて。」

ディーン「引き取るって・・・自分の産んだ子供でもない、ましてや血の繋がりなんてない、赤の他人なんだぞ?」












ディーン「お前の将来はどうなる?子供一人育てるのがどれだけ大変か・・・。ましてやお前たった一人じゃ・・・。それにその子がいたら、仕事だって支障が出るし、結婚だって・・・。」













アイビー「でもロミオの子供なの。」














ディーン「っ・・・・・。」

アイビー「大好きな人の・・・ロミオの残してくれた、唯一の宝物なんだよ。」













アイビー「だから私は、守るって約束したの。ミランダさんにも、ロミオにも。ふたりにとっても、私にとっても・・・・大切な、宝物だから。」













ラトーシャ「アイビー・・・・。私、アイビーの気持ち、少しならわかるよ。私には、そんな決断できないと思うけど。」

アイビー「ラト・・・・。」

ラトーシャ「私だって、ディーンと血の繋がりのある子供がこの世にいたら・・・・相手の女性が誰であろうと、その子のことは愛おしいと思うもん。」

ディーン「・・・・。」

アイビー「ありがとうラト。」









ディーン「生活はどうするんだ?その子が退院したら。」

アイビー「もちろん仕事は続けるけど、制限して育てるつもりだよ。」

ディーン「・・・父さんたちには、どうする?」













アイビー「いつか・・・落ち着いたらちゃんと話すつもり。」

ディーン「説得できるのか?」

アイビー「・・・がんばって説得する。」












アイビー「ふたりには、頼ることもあるかもしれないけど・・・・迷惑はかけないようにするから。」

ディーン「ばか。兄妹なんだから頼って当たり前だ。」

アイビー「ディーン・・・。」












ディーン「全く・・・お前もララも、なんでそう無鉄砲な決断ばっかりしちゃうんだよ・・・。事前に相談するとかいう考えはないのかよ。」













アイビー「まったくだね。」

ディーン「ああ。まったくだ。」

アイビー「ごめん。」












ディーン「家族にはまだ言わないつもりなんだな?」

アイビー「うん。」

ディーン「わかった。じゃあ俺も黙っておくよ。」

アイビー「ありがとう。」












アイビー「いつか、落ち着いたらアダムと一緒に実家帰るつもり。」

ディーン「そうだな。そのときは俺も援護する。」

アイビー「うん。」











アイビー「ふたりとも、ありがとう。」